みなさんはテンナンショウはご存知でしょうか。テンナンショウ、別名マムシグサ。
しかしその和名は混乱が見られます。
まず、マムシグサと呼ばれるものは複数種類あります。そしてその中で、Arisaema japonicum、1種が狭義の“マムシグサ”そのものなのです。
以下にその見分け方を画像と共に紹介します。なお、広義のマムシグサに含まれるコウライテンナンショウ(A. peninsulae)とカントウマムシグサ(A. serratum)に関しては長く長くなってしまうので、また別の記事にまとめましょう。
↑マムシグサ
Arisaema japonicum 高知県産
さて、まずは分布です。
四国九州からトカラ列島にかけて分布しています。
ちなみに屋久島や甑島のものは概ね褐色で白条が多数目立ちます。それぞれヤクシマテンナンショウ(A. yakushimense)、コシキジマテンナンショウ(A. koshikiense)とされていましたが、現在は両者とも狭義マムシグサのシノニムとされています。
次は大事な大事な形態です。
箇条書きにすると、
1. 基本的に早咲き型(葉の展開より花が先に開花する)
2. 仏炎苞(いわゆる花の部分、実は本当の花はその中に存在し、周りを囲むこれは葉が変化したもの)の舷部(先っちょのフタみたいに垂れてる部分)の内面が平滑
3. 花は3月下旬に咲き始め、5月初旬には終わりを迎える(例外あり)。
4. 付属体(仏炎苞に囲まれた、真ん中の棒)は淡緑色で、棒状(例外あり)。
5. 葉は2枚(両側に存在する細かく分かれた小さな葉は、片側ずつで1枚と数える)、小葉(それぞれの1枚ずつの葉)は9〜17枚(例外あり)。
といったところ。
前述のカントウマムシグサとコウライテンナンショウに比べたら、これでもまだ分かりやすいのです…
識別のポイントとしては、
1. 1個体だけではなく、周辺の個体を出来るだけ多く確認する。
2. 1個体の特徴をすべて満たしていなくても、周辺の個体の特徴と総合して検討する。
3. カントウマムシグサ、コウライテンナンショウの可能性を排除する。
といったところです。
カントウマムシグサとコウライテンナンショウ、この2種と明確に区別できる点は、仏炎苞内面の細脈の有無です。この2種は細かい隆起した脈が存在しますが、狭義マムシグサにはその際脈がなく平滑です。
↑こんな感じ。
葉の枚数は9〜17枚ですが、この個体は片側の葉が5枚です。半分例外となりますね。
さて、次はこの狭義マムシグサの変異を洗ってみます。
四国のものは概ね緑色で安定していて、仏炎苞舷部先端がやや細く伸びます(上の画像を参照のこと)。
これらはホソバテンナンショウに形態が似ています。小豆島や沖ノ島のものは仏炎苞がやや盛り上がり、白条が広がって目立ち、付属体は若干の黄色味を帯びます。一方でブナ帯の分布するものは葉がしばしば1枚で花期が遅く、白条がほとんど目立たないものがあるものの、これらは変異に富み、低地のものへ連続性を持っているものです。
九州のものは緑〜紫褐色までの変異があります。コシキジマテンナンショウとされた形態のものは九州各地の低地に多く見られます。ヤクシマテンナンショウとされた形態のものも九州各地で見られるものの、屋久島の山地上部にみられるものは矮性で小葉の数が多く、細く葉軸があまり発達しないもので、これら屋久島の集団はやや独立している傾向にあると言えます。
またヒトヨシテンナンショウ(A. mayebarae)は仏炎苞が暗紫褐色で舷部が盛り上がるがそれ以外は狭義マムシグサと同じ形態を持ちます。九州南部に広く分布し、狭義マムシグサと混生し交雑することもあることから、本種は狭義マムシグサから独立したものと考えられます。
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